先に登場したエルシードの人形は、その日の夜もちょっとした騒動を起こした。もっとも、騒動というものがエルシード達にとっては日常茶飯事にあたるのだが。彼女達の日常は、まともな人間から見れば異常なのだ。  なんだかんだの事情で王妹の家に居候していたヴァレリーは、エルシードと並んで夕食を口にしていた。 「それにしても、シャラザードがつくるご飯はいつもおいしいことだなあ」 「おぬしなどに食べさせるのはもったいないのじゃ」 ヴァレリーとエルシードの二人は四角いテーブルの前に横に並んで座っている。二人とも同じくらいの長さの髪を同じように後ろに束ねているので、どこか兄妹のように似ていて、側にいるシャラザードには何だかおかしい。 「どうじゃ、参ったかなのじゃ」  食後のヨーグルトで口のまわりを真っ白にしながら、エルシードはさも自慢げににこにこしていた。なにも彼女が自慢することではないのだが、横で皿の後片付けをしているシャラザードは別に何も言わない。 「でさ、やっぱりあの人形、一体もらえないかなあ」 「きさま、しつこいぞ!」 いきなり不機嫌になって、エルシードはテーブルを右手の拳でたたき壊した。比喩ではなく、実際にまっぷたつに破壊したのである。 「もう、いい加減になさい!」 シャラザードの鈴の音のような叱声が二人の上に飛ぶ。彼女にしては怒りが少し早いようだが、朝から一日中ごちゃごちゃと騒がしいエルシード達の方が悪いのである。二人ともあっという間にしゅんとなってしまった。 「ほら見ろ、おぬしのせいで叱られてしまったではないか」 「それより、あの人形のことだけどね、面白い使い道があるんだよ。だからしばらく私に預からせてくれよ」 「ぬう、うっとうしいやつめ」 エルシードは腹立たしげにヴァレリーを睨み付ける。が、シャラザードの優しい横顔が気になって声を荒げることはできなかった。 「……ようし、ならば仕方ない。そのかわり条件を付けるのじゃ」 「条件?」 「そうじゃ、わたしが今考えていることを、おぬしがぴたりと言い当てることができたならば、あの人形をおぬしにくれてやろう」 「なんだ、そんなことなら簡単だ」 「なに? いい加減なことを言うなじゃ!」 人が他人の心など読めるわけはないので、エルシードには絶対の自信がある。が、ヴァレリーの余裕の表情を見ると、やはり不安になってきたのだった。 「だって、姫は絶対嘘はつかないんだろ?」 「うむ、当然のことである」 「じゃあ、やっぱり簡単だ」 「うぬぬ、おぬしなんぞにわたしの心の内が読めるものか!」 「それがわかるんだなあ」 ヴァレリーの表情は相変わらず勝利の確信に満ちている。 さて、彼の確信の根拠とは……