「姫様、そんなことで怒ったら、あの人がかわいそうですわよ」 「だってじゃ、あやつはわたしが苦しんでるのに、助けようともせんかったのじゃ。許せんなのじゃ」 「それは、助けようにも、助けられなかったからですわ」 「……??」  少女は怪訝な顔をして母親のくちびるを見つめている。 「夢の話で、姫さまは最初、南へとまっすぐ進んでいた、とおっしゃったでしょう? そして途中で父の姿を見た後、元来た道を南へと引き返していった。これは一体どういうことなのでしょう。南に進んできたのに、引き返す方向も南だなんて」 「う……そ、それは……」 「その答えは、ただ一つですわ。姫様は南極のあたりを歩いていたんですわよ。そして、歩いている最中に、南極点を通過した。だから、行きも帰りも方向が南だったのです」 「むむう、しかし、それがどうして、あやつを怒ってはいけない理由になるのじゃ。やっぱり、許せないのじゃなのである」 「姫さまは、父が涼しげな格好をしていたとおっしゃっいましたよね? 南極で涼しげな格好をしている筈はないです。つまり、父はその場にはいなかったか、あるいは、もう死んでしまっていたのです。それにもかかわらず、姫さまが心配なあまり、そして、姫さまを想うあまり、姫さまの前に幻となって現れたのですわ。ああ、なんてロマンティックな話なんでしょう!」 「そ、そうか! そういうことじゃったのか!」  エルシードの表情が一気に明るく輝いた。 「あやつも照れ屋な男よのう。そんなことを話さずに隠していたとは!」  どどどど……と、エルシードはヴァレリーの部屋に向かって走っていった。 「おぬしも、そういう事情があったのなら、正直に話せばよかったものを! すっかり誤解していたではないかなのじゃ。 次からはちゃんとおぬしの考えを逐一報告せいよなのである!」 「……????」  ヴァレリーはわけが分からなかったが、とりあえずほっとした様子で、照れたような笑いを浮かべた。  そしてエルシードの方は、その日一日はすっかりゴキゲンだったという。