どうしても答えがわからないヴァレリーは、仕方なく持ち前のペテン師魂を発揮することにした。こんな予定外のことで半殺しの目に遭わされるのは何としても避けたい。 「まったく、相手してられないよ。帰ろ帰ろ」  あきれたような声をその場に残し、ヴァレリーはエルシードの前から逃げ去ろうとする。「きさま!! このわたしが誰のためにこんなことをしていると思っているのかっ!」 「あはは、引っかかったー」  燃え立っているエルシードの方に、ヴァレリーはゆっくりと振り返る。顔には会心の笑みを浮かんでいた。 「ほら、本物が見つかった」  エルシードは一瞬あっけにとられて口をぽかんと開けた。しかしその直後、ペテンにかけられた自分に気付いて再び燃え上がった。 「違うのじゃ、違うのじゃ! そんな下らぬ方法ではなく、論理的かつ数学的な解答をわたしは期待しているのじゃ! おぬしにもう一度だけ機会をやる。しかし次もまた同じような馬鹿げた答えをしてみよ、今度こそ徹底的につぶすぞ!!」  憤然としながらも、エルシードはめずらしくその怒りを自分の力で抑えた。そして、再び人形の列の中に戻り、目を閉じてヴァレリーの答えを待つ。  ヴァレリーは再びほとほと困り果て、再び腕を組んでうなだれた。今度ばかりはさすがの彼ももはやお手上げらしい。  するとその時、彼の頭脳に突然天啓が与えられた。誰による天啓か、それは読者諸賢が最もよく知っているに違いない。  とにかくヴァレリーはその天の恵みにしたがって解答を始めた。自分に天啓が与えられた理由などに、今の彼は構っている場合ではない。ためらえば、彼を待つものは半死のみである。  彼はまず、どこから取り出したのか黒の染料を手にし、それで七体の人形(無論その内一体は本物のエルシードだが)の顔にそれぞれ1から7の数字を大書した。以前にも彼はエルシードの顔にラクガキをして殺されかけたことがあるのだが、彼も懲りない男ではある。 エルシードは顔に触れられたことに不快を感じたに違いないが、目を閉じているのでまさか自分の顔に大きな数字が書かれているとは思わなかったようだ。  次に彼は、砂袋を額に汗を浮かべながらせっせと運び始めた。40キログラムの重荷を片手で軽がると運ぶエルシードのような怪力はヴァレリーにはない。が、いくら大変だろうが、 「何をやっとるんですか」  と召使いに白い眼で見られようが、彼は途中で投げ出すわけにもいかなかった。  そして太陽が天空をおよそ三十度ほど移動した頃、ようやくヴァレリーの作業はおわった。 「いまから解答を言うよ」  ヴァレリーは天の声を参考に、気難しいお姫さまを満足させにかかった。 「いま、姫さま1号のところから砂袋1個、姫さま2号のところから砂袋2個・・・・というように、それぞれ顔の数字と同じ数の砂袋を取った。  全部で、(1+2+3+4+5+6+7)=28個の砂袋を取り出したわけだ。  で、人形の前の砂袋が40キログラム、本物の前の砂袋が41キログラムなんだから、これら全部をはかりに乗せるとその重さは・・・・  姫さま1号が本物だったら ……40×28+1=1121(キログラム)    姫さま2号が本物だったら ……40×28+2=1122(キログラム)  姫さま3号が本物だったら ……40×28+3=1123(キログラム) ……という感じで、砂袋全部の重さを一度だけ測ることによって、本物姫さまが何号かわかるわけだ」 「お見事!」  顔に大きく3と書いたままエルシードは満面の笑みを浮かべた。 「見よ、追い詰められることによって、二ケタの掛算も同時に修得できたではないか! この試みはまさに大成功だったようじゃな。ははは、よし、すぐに第二弾も考えてやるから待っておれよ!」 「……それはちょっと……」 「ははは、遠慮するな。それとも嫌か!? 嫌じゃとは言わさんぞ!」  迷惑げなヴァレリーにそう釘をさすと、エルシードは満足気に歩き去って、シャラザードが作るおいしい夕飯を食べにいった。このあと顔面の3という巨大なラクガキに彼女が気付くまでに、彼女は数人と会話をしたらしい。   そして結局、その後ヴァレリーは半殺しの目に遭ったのだった。